大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)584号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(爭點)

二六・七・三一附で甲区検察庁検察官は、ドル軍票不法所持の事実を甲簡易裁判所に起訴し、同時に略式命令を請求した。同裁判所は、同八月一日附で略式命令を発し、その謄本を同月九日被告人に送達しようとしたところ、住所地に居住していない理由で送達不能となり、同月一七日この旨を検察官に通知した。結局同年九月三〇日迄に略式命令謄本を送達することができなかつたので、右裁判所は右公訴提起は効力を失つたものとして右検察庁宛に起訴無効通知なる書面を送達した。その後一一・二七乙区検察庁検察官は、簡易裁判所に対し同一被告人に対する同一事件を起訴し略式命令を請求した。そして右裁判所は略式命令を相当でないと認め、通常手続により審判することとしたが、原審で弁護人から前記第一の起訴が失効していないことを理由としてこの審理は刑訴第一一条により当初の公訴を受けた甲簡易裁判所が審理すべきであるから同法第三三九条第四号により公訴棄却の決定を求めた。原審はその儘審理を進め、有罪判決をなしその理由中で最初の起訴は、略式命令謄本の送達不能となつた後二ケ月の経過と共に刑訴第二七一条の適用又は準用により効力を失つたのだから後の起訴に係る事件は刑訴第一一条に違反しないというている。この判決に対する控訴趣意は第一の略式手続を求める起訴が効力を失つていないことを主張しているわけである。

(判旨)

そこで原審が判示しているように果して略式命令謄本の送達が不能に帰した場合之を起訴状謄本の場合と同視し或は之を類推して刑事訴訟法第二七一条の適用(又は準用)があり昭和二十六年七月三十一日附公訴の提起はさかのぼつてその効力を失つたものであるかどうか(甲簡易裁判所は原審の見解と稍異つて公訴提起のあつた日から二ケ月内に略式命令謄本が送達されなかつたものとして公訴の提起がさかのぼつてその効力を失うものとの見解であると認められるが、結果的には原審と同一結論になるわけである)について検討する。この点に関し起訴状謄本送達に関する刑事訴訟法第二七一条の趣旨と略式手続との関連について考えるに、同条は被告人が防禦方法を講ずるについて準備の機会を与えんがために設けられたものと解するのが相当であるに反し、略式手続においては被告人の防禦という観念を容れる余地が全然ないのであるからこの場合に於ては前同条の規定の適用がないものとすべきであると解せらるのみならず、略式命令そのものは裁判所が被告事件について下した裁判である以上、その謄本を起訴状謄本と同視し或は類推するが如きことは許されないところといわなければならない。してみると裁判所が刑訴法第四六三条によりその事件が略式命令をすることができないものであり、又はこれをすることが相当でないものと思料し通常の規定に従い審判をするときか、検察官から正式裁判請求があるか又は略式命令送達後被告人から正式裁判の請求をした場合にここに初めて起訴状謄本(本件に於ては略式命令請求書謄本)を被告人に送達する必要が認められるに過ぎないのである。(刑訴規則第二九二条第二項)。従つて略式命令謄本が被告人に対し送達することができなかつた本件の場合に於ては右送達不能のまま公訴提起後二箇月以上を経過したときと雖も起訴状謄本が送達されなかつた場合と同一に論ずることを得ないのはもちろん、未だ起訴状謄本送達を必要とする以前の段階に属するものであるから、刑事訴訟法第二七一条第二項の適用又は準用はなく、略式命令謄本の送達が公訴提起の日より二箇月以内に送達されなくとも公訴の提起はさかのぼつてその効力を失うことはないものと解すべきである。それ故本件と同一事実について先に甲簡易裁判所へ公訴提起があつた以上、それに基く略式命令謄本が送達不能となつてもそれだけでは公訴提起の効力を失つたということはできないから依然同事件は甲簡易裁判所に係属中であるに拘らず同裁判所が起訴無効通知を検察庁にした事自体が失当であるし他方原(乙)裁判所が本件公訴提起に対し同一事件が先に甲簡易裁判所に起訴された事実を認めながら、刑事訴訟法第一一条に則つて最初に公訴を受けた裁判所がその審判を為すべき法理を無視し本件について公訴を棄却しないで実体の判決をしたのは不法に公訴を受理したものに外ならない。論旨は理由がある。

(説明)

略式命令の場合に刑訴第二七一条が如何に適用さるべきか又は全然適用の余地はないのか、この点の明文のない新刑訴の難点の一つでありこの点に関し諸説の存することは周知のとをりである。判例を見るに、尠くとも通常の手続に移行する前は刑訴第二七一条の適用はないとするが一般であり(二六(う)第七三五號二二政令第一六五號違反被告事件、二六・一〇・一二第七刑事部判決、高裁判例集第四卷、第一三號一八三一頁、二六(う)第六一五號公職選擧法違反被告事件、二六・一〇・一三高松高裁、高裁判例集同號一八三九頁、二五(う)第二〇九號物価統制令違反被告事件、二七・三・二九、第六刑事部判決、同第五卷、第三號四四八頁、二六(う)第四一三八號臨時物資需給調整法違反被告事件、二七・七・一一第一〇刑事部判決)、然らばその失効のための二箇月の期間の起算点については、右高松の判決が正式裁判請求の日と解するに対し、第六刑事部判決は、裁判所が検察官に刑訴規則第二九一条所定の通知したとき、正式裁判の申立のあつたことを通知したとき、検察官が正式裁判の申立の通知をしたときと解し、第十刑事部判決亦同旨である。第七刑事部判決は、全然起訴状謄本の送達を要しないという趣旨迄いつているのか稍々明瞭を欠く点があるが、正式裁判申立による移行の場合に、その受理後二箇月以内に起訴状謄本の送達がなくとも、送達された略式命令謄本記載の犯罪事実が起訴状記載の公訴事実と略同一で罰条にも変更がない以上公訴の提起は失効しないといつている。

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